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作家 重松清さん(55歳)
オトンの流儀とか
アーティスト編 Vol.10

もしも、お父さんと息子が同い年だったら友達になるだろうか?どうだろうか?無理だろうか?【第2回】

作家 重松清さん(55歳)

作家 重松清さん(55歳)

家族構成:妻、娘(26歳)、娘(21歳)

聞き手:oton+to編集長 布施太朗 写真:島野大輝

第2回小学5年生の長女のお父さんを42歳の僕がやるというのはたった1回ですから。

―なるほど、たしかに小学5年生の自分というのは1回しか体験していませんね。

僕は1973年に小学5年生だった。ただこれだけなんです。別の時代の小学5年生は体験していないし、1973年を大人として生きたこともない。1回だけのめぐり合わせなんです。それは本当にかけがえのない自分の経験ではありますが、絶対的なものではないんです。今、教育問題だとか学校の先生が大変なのは、世の中の全ての親が、学校に通った経験があるということなんです。昔はああいう先生がいてくれたとか言うけれど、たまたまその時代に1回だけ経験しただけの話ですから。でもそれを否定することもないんですよ。かけがえのない経験だから。でも、繰り返しになりますが、それが絶対ではない。

―そういう見方ができていないことが多いような気がします。

難しいですよね。だから子育てにしても、小学5年生の長女のお父さんを42歳の僕がやるというのはたった1回ですから。下の子が小学5年生の時はまた違うんです。高校2年生のお姉ちゃんがいる小学5年生の娘を育てている48歳の父親というのも、初めての経験なんです。だから1度たりとも、前にやっているから大丈夫なんてことは言えないわけだし、「前もやってるくせに、何やってんだ」なんてことも言われる筋合いはないんです。

―つまり、全員がルーキーだということですね。

そうそうそう!ルーキー!ルーキー!!だから僕もね、今、結婚32年目を初めてやっているわけですよ。来年は初めて33年目をやるんです。

―そういう感覚を持たれるようになったのはいつ頃からですか?

娘に反抗されていた時です。さっき言った小学5年生の頃。「しょうがないだろっ!俺だって小学5年生の娘の親を生まれて初めてやってんだよ!!」って言いました。

―どんな反応でした?

その時の娘の反応は覚えていませんが、あとでカミさんから言われました。「屁理屈言うな」って(苦笑)。

―あははは!

カミさんはずっと学校の先生をやってきて、その影響もあるんでしょうけどね。でも学校の先生というのも、いくら経験を積んでも、どんなベテランでもそのクラスを受け持つのは初めてなんですよね。それを考えると親と子の関係もね、まだけがれを知らない3つ4つの子から思春期があり大人になり、それぞれフェーズが違います。親だって、仕事に燃えて忙しい時もあればペースダウンする年齢もあるだろうし。だからその都度、一期一会だと思います。

―そう意識できると楽にもなれるし、新鮮ですよね。

そう。いつも新しいものを触るから火傷しちゃうこともあるけれど、それでもやっていけるのは、足腰があるからだと思うんです。

―足腰ですか。

これまで生きてきたということ。それが踏ん張る時の保険になっている。さっき話していた経験というのは、新しいことを鷲掴みにしちゃうと痛い目に合いますが、踏ん張る時に底力を発揮すると思うんです。

―経験は、踏ん張る時の底力。

そう。経験は底力なんですよ。踏ん張る時の力、ピンチを凌ぐ時の力、それが底力。この底力という言葉は、攻めていく時には使わない言葉ですもんね。例えば、自分がだんだん老いを自覚するようになるにつれ、落ち込むことも増えるだろうけど、でも落ち込み切らずにいることができるしぶとさというのは「なんだかんだ今まで大変なことあったじゃん、やってきたじゃん、俺」みたいな、そういうことだと思うんです。

【第3回】 「『パパは細かくてちっちゃい奴だから、君に直接話をしても素直に聞いてくれないと思う。だから、この本を読んでほしい』という気持ちで、あの本だけは娘のために書いたんです。」に続きます。

重松清さん

今回の"オトン"なアーティストは、

重松清さん

家族構成:妻、娘(26歳)、娘(21歳)

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