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これからの家のあり方
2020.9.11
暮らしかた改革のススメ|まとめ
住む家、住む場所は、もっと自由になる。
テレワークの急速な普及は、業種や職種にもよりますが、これまでのワークスタイル、ワイフスタイルがガラリと変わってきました。これまで勤務先で働く時間が大半を占めるということが当たり前でしたが、自宅でも仕事ができる、パフォーマンスが落ちないということがわかれば、オフィスに行く意味を明確にすることが求められるようになります。基本は自宅で、月に2~3度オフィスに行くというワークスタイルがとても現実的なものになった人も増えたのではないでしょうか。そして一方では、家の中でのワークスタイルを考えていくことになるでしょう。テレワークで顕在化した「子ども部屋はあるけれど、仕事部屋はない」。「夫婦が同じ時間にオンラインミーティングをする場合お互いの声がうるさく集中できない」などのスペースの問題や、「旦那は家にいるのに、子どもが泣いていても、仕事だからと一向に面倒を見てくれない」「仕事中なのはわかるけど家にいるのだから、もう少し家事も協力してほしい」などの不満。これは一つ屋根の下で暮らす人同士の心遣いや決めごとといったようなこと。いずれにしても、家が職場にもなったことでの問題ですね。
これまでは、多少家が狭くても通勤に便利な場所を優先する人も多かったと思いますが、これからは、通勤時間より家の広さを求めるという人も増えてくるのではないでしょうか。書斎などは旦那の道楽に過ぎないなんて言われていたけれど、今後は書斎スペースの必要性は増すかもしれません。それも職場から1時間圏内などという適度な利便性すらも取っ払うことができるようになり、もっと郊外、地方というのも選択肢として上がってきます。
数年前から2地域居住というライフスタイルを取り入れる人が少しずつですが増えてきていました。平日は都心のマンションに住み、金曜夜から日曜夜を自然に囲まれた環境で過ごすという暮らし方。ただ今後、平日は都心のマンションに、という必然性がなくなる人も増えてきます。そうすると、都心の利便性を得るためにかけていたお金を、自分の家族の価値観で選んだ場所の家にかけるようになる人も増えるでしょう。家族が暮らし、夫婦が家で仕事をするのに十分な広さを持った家。そうすると都心から移住した人たちが魅力に感じるお店も増えるでしょう。それは、かつて別荘地として文化が醸成されていった軽井沢や湘南などのようなエリアが他にも生まれる可能性があるということですね。これからは、別荘ではなく住む場所として。
職場立地という条件によって自ずと決まっていたことから開放されるので、今までよりも主体的に、家族が何を大事にするかを考えることが大切になります。暮らし方改革ですね。ライフスタイルについて主体的に考えていくことができると、住む場所も家ももっと自由になります。
家は未完成でいい。子ども部屋は居心地悪いほうがいい。
我が家の子ども部屋の話をします。子ども部屋のことは以前にも書きましたが、この家ができて16年。
16年前、ハーフビルドで建てた家。子ども部屋は自分で床を張りました。ちなみに私はど素人です。その頃は釘打ちなんて中学校の技術の授業以来したことありませんでした。「家を建てるなんて、多くの人にとって一生に一度のこと。全部人に任せるなんてもったいないじゃん。せっかくだから自分でもやってみたら」。大工さんのそんな言葉に刺激を受け、自分でも電動のこぎりを買い、家に積まれた床材(大工さんが注文してくれました)の寸法を測って切るところからはじめ、フロア釘というものを買い、トンカチも買い、1枚ずつ床に釘を打ち込んでいきました。現在、子どもは大学生男子、高校生男子、中学生女子になりました。今も3人の部屋です。3人の子ども部屋、その変遷を写真で紹介します。
床を張っているところ。2才の長男が見守ります。
オトンと長男。「ど素人だけどだいじょうぶか?」2才の長男が見守ります。
それから数年後、長男(右)は小1になりました。これは3人が並んで座れる机。ホームセンターで天板となる板を買い、イケアで足を買い、取り付けました。写真は机が出来た初めての夜。
みんな喜んでいました。
家が出来て、いくつか取材をしていただきました。こちらもある雑誌に掲載された写真。次男は机の上。
机の上に乗って落書き中。
今の次男のスペース。小さかった時の落書きがそのまま残っています。当初は、子どもたちが小学生になったくらいで、壁を漆喰で塗ろうと思っていました。だからそれまでは自由に落書きしていいよと言っていたら、壁じゅうが落書きとなり、残しておきたいものになってしまいました。だから壁は石膏ボードのままなんです。上の写真を見ると、壁の落書きは小さな頃だけだと思っていましたが、最近も自分の名前を壁に書いていたようですね。
こんな感じで今も配管むき出しのままです。子どもから文句を言われたことはありません。生まれた時からの光景ですから。
娘のスペースは、中学生になってからカーテンで仕切るようにしました。ホームセンターで買った物干し竿をカーテンレールにしました。
奥が娘のスペースです。
息子2人の2段ベット越しにみた3人の子ども部屋です。この先、またどこかが変わるんでしょうね。
というわけで、うちの子ども部屋は作り途中のまま16年が過ぎました。で、思うわけです。家っていうのは、完成させなくてもいいんじゃないかと。住み始める前に出来上がっていなくても。屋根があり壁があれば、あとは何かを感じた時に、何かをしたいと思った時に、自分で手を入れていく。もし上手くいかないことがあったり、制限があったりしたなら、工夫をしていく。その工程こそが暮らしを面白がることにつながるんじゃないかと思うわけです。家族とか、人生とか、ずっと途中です。特に完成なんてものはないわけです。その視点を持つことができると、それはもう暮らし方改革。途中そのものを面白がることが出来たら、もう幸せですね。
テレビ番組か何かで所ジョージさんがこんな内容のことを言っていたのを覚えています。「仕事終わって、呑みに行くっていう時間がもったいなくて。私は早く家に帰りたいんですよ。家でやることがいっぱいあるから」。所さんは多趣味で有名ですよね。車、エアガンにプラモデルに畑仕事、音楽なんていうのも(こちらはお仕事ですが)。あの人は多趣味だからというのは簡単ですが、家でいろんなことを楽しんでいるっていうのに憧れるオトンも多いと思います。所さんはこんなこともよく言っています。「めんどくさいことが面白いんだよ」と。
以前oton+toで取材をしたつるの剛士さんも、暮らしを楽しんでいる人でした。5人のお子さんのオトン。暮らしそのものに興味を持っているといいますか、それで興味を持ったら始めるんですよね。最近ですと、エレクトーンを始めたり。記事でも書いていますが、娘さんの髪もきれいに結んであげるんだそうです。これも初めは奥さんみたいにカッコよく結んであげたいっていう動機からだったそう。暮らしの中で、何かに興味を持って自分もやってみる。そんなことを日々やっている人だなあと思いながらお話を聞いていました。数日前には、息子さんだけでなく自分も学習塾に通うことを決めたそうですよ。
家での暮らしをどう楽しむか、面白がれるかっていうところは、とても大事な気がします。そんな中、今回紹介するのは、DIYで家具作り。てまひまかけて自分で作るっていう遊び。「めんどくさそう!」と思う人もいるでしょう。でも「だから面白いじゃない」ということです(笑)。
間取りを決める時には、その前に、様々な些細なシーンを想像しました。
縁側で足の爪を切っているとか、湯船に浸からながら外から吹く風にあたっているとか、家を真っ暗にしても、月明かりが部屋に差し込むような十五夜みたいな感じとか、バルト海の漁師の家みたいなチープなタイルの洗面所(勝手なイメージ)とか、中なのか外なのか曖昧なバリのホテルのラウンジとかオールドハワイアンな雰囲気とか、無骨な厨房みたいなキッチンとか、他の人からみたら町工場みたいなトタンのような外観とか。鬱蒼としたあぜ道を進んだら家とか、子どもが大きくなっても、リビングダイニングでみんながいる様とか、そして家族はずっと進行形なので、家もずっと進行形、つまり仕上がっていない感じとか。今、ほぼそうなっているかなと思います(自分の思い込みと程度の差はあれど)。家族みんなウッドデッキに座り込んで爪を切っています。間取りの前に、シーンを想像することは大事だったなと思います。
リビングダイニングを1Fにするか2Fにするか。
子どもが学校から帰ってきたときに、必ず顔を合わせられるように、リビングダイニングを通ってから子ども部屋に行く導線がいいという話をよく聞いていました。なので、そういうことは大事だなと思い、かなり悩みましたが、我が家は、より明るいリビングダイニングを優先し、2Fにしました。結果、子ども部屋は1Fとなり、玄関からそのまま行けるようになったのですが、自分の部屋よりも、リビングダイニングにいたくなる家族になればいいんだと強く思ったのを覚えています。そして、子どもが小学生になり、中学生になり、高校生、大学生へ。玄関から部屋へ直行することはなく、まずは2Fのリビングダイニングに上がってきます。リビングダイニングが家族全員、普段いる場所になっているんですね。今回の外出自粛の期間では、家族5人、中、高、大学生がみんなこのリビングダイニングにいました。そうはいっても、仕事ではZOOMを使ったオンラインミーティングがあり、大学生の長男も同じようにオンライン授業があったりとする中、ここにきてようやく子ども部屋を使う頻度も高くなってきました。オトンの昼間はウッドデッキにテーブルを出して仕事をしていることが多く、長男は屋根裏スペースで授業を受けたりもしています。みんながそれぞれ、相手の邪魔にならない、自分が集中するのに心地いい場所を求めてその都度家の中を動いていました。今もそんな感じです。それはそれで、今更ながら面白いです。家全体が使われている感じが。
家の素材について
我が家を建てる時、それぞれをどんな素材にするか。とにかく決めることが多いですが、自分たちが一番大事にしたのは、経年が味になるような風合いでしょうか。つくりながら、繕いながら暮らす。みたいなことが出来たらと思っていました。家は基本、無垢の素材を使いました。床には無垢のパイン材、2Fの天井には無垢の杉材、壁は全部漆喰です。2Fの主要な窓は全て木枠です。特にリビングに設けた3枚の掃き出し窓は窓ガラスも昔の日本家屋に使われていた薄いもの。木枠の窓の間からは隙間風が入ってきます。雨戸も昔ながらの日本家屋にある木製のもの。高気密・高断熱の技術が高まる現在、新しく建てる家で、これを採用するところはほとんどないと思います。ウッドデッキも、腐敗しない樹脂製のものとかではなく、無垢のレッドシダー材。大事にしていたのは、木の暖かさや風合いと言うことはもちろんですが、経年の劣化を味わいにできること。この先、自分で手を入れ、繕いながら生活をしていくということを実現したかったからです。面倒くさいことも多分にあると思いますが、自分でやる、手間をかける、そういうこと自体を楽しむという価値観は素材選びに反映しました。ただ、そんな考えの中、風呂はユニットバスです。はじめはタイルでオリジナルでということも考えましたが、水周りはハードに使っても、できるだけ長く持つもの、という考えで、たくさん流通していて、顧客データもFBも多く商品改良も行われているであろうと思われる、TOTOの中級クラスのものにしました。しかし、窓は大きなものを。メーカーの人には寒いですよと言われましたが、湯船に浸かっていても外を感じることができることを優先しました。
我が家の壁に貼っている飾りもののこと
自己肯定感を高めるためにということの中に、無条件で褒めるとか、いてくれることに感謝とかありますよね。日々のコミュニケーションの中にそんなことが満たされている状態になればいいのだろうなと思います。そして、日々のコミュニケーションというのは、言葉や態度以外にもありますね。たとえば家。家の中にたくさん子どもの写真や家族の写真を飾る、子どもが作ったものを飾る。それを毎日の生活の中で目にする。これは自己肯定感を育む上でとてもよいと言われています。そういうことはあまり考えずでしたが、ウチも壁に掛けたり写真立てで並べたりしています。我が家の場合、ダイニングの窓枠に子どもたちが生まれてからの年賀状を貼っています。いつも基本写真だけなのですが、我が家なりに、紙質も考えて作っていました。布施家の年賀状というのは、ママ友や子どもの友達にも評判がよかったようです。ダイニングには毎年足されていきます。以前、これから年賀状はどうするかという話になりました。この時代、子どもたちもLINEで挨拶する中、送る枚数は激減しているのですが、長男がひとこと「送らないっていっても、年賀状はウチのアイデンティティだからなあ」と、目の前に貼られた一連の年賀状を見ながら言いました。「ええこというやんけ!」送らなくても作るってのもありですかね。
窓の枠に沿って毎年足されていく年賀状。
次男がノートの切れ端に描いてテーブルの上に置きっ放しになっていた絵を貼りました。ペンギンも次男作。トートバッグの裏にはパンダの絵。時々そちらを表にします。
右の絵は昔フリマで数百円で買ったものですが、左は大学生になったけれど外出自粛で暇を持て余した長男が突如思い立って作ったお面。「怖いから飾らないで」と妹には不評でしたが、いつの間にか慣れたようです。
うちは、いたるところにランダムに貼ったり飾ったりしていますが、どこか1箇所、ギャラリースペースを作るのもいいと思います。何ヶ月かに1度、新しいものに貼り替えたりして。
家には、手触りとひと手間の愛着を。
家の中で、よく壁を触ります。階段の手摺りを触ります。無垢の灼けた床板も、ステンレスの天板も、ダイニングのテーブルもよく触ります。ドアノブは当たり前ですが、開け閉めの必要ないときにも触っていることがあります。この家に住んでから、触り心地というものを意識するようになりました。それは何年経っても変わりません。というか、年が経つほど意識するようになったと思います。経年を感じる素材を多く使っていることでそういう意識が高まったことも大きいです。手摺りや真鍮のドアノブは、丸みを感じるといいますか滑らかになっていきます。床はだんだんと木の節、年輪の存在感が増し、ボコボコした感触に。分厚いステンレスは変わらずツルツルですが。
千利休の有名な茶器に、日本の職人に作らせた「黒楽茶碗」というものがあります。その頃は、中国から輸入された「曜変天目」という色合いがとても神秘的で角度によって輝きが変わるという、視覚的にとても美しく、そして非常に端正な形をしたものが一流とされていました。しかし、千利休の「黒楽茶碗」は、黒一色で、形はボコボコと飲み口も歪んでいるという素人が粘土でこねた無骨な茶碗という印象です。実際、これを作った職人、長次郎は瓦職人で器作りは全くの素人だったようです。ただ、ここで千利休が目指したのは、凸凹とした、覆った手のひらいっぱいに感じる暖かな手触り、つまり視覚を廃した触覚だったのではないかという考察があります。
住まいへの愛着というのは、住まい周辺の自然環境に愛着を持ったか、五感でどれだけ感じたかに関係し、これは子ども時代に形成されるといわれる感受性を育み、その感受性に影響されるのだそうです。住まい周辺の自然環境というのは、山、川、田んぼなどの自然はもちろん、遊ぶ声、蚊取り線香のにおい、家具や建具の手触り、窓からの景色という(音、におい、肌触り、見た目)のこと、と、ある文献に書かれていました。
家の素材の手触りというもので、愛着は経年ととも深まるということを実感しています。
あとは、下手でも自分で取り付けたり塗ったりと、手間をかけたものには愛着が湧きますね。
自分たちで塗った漆喰の壁。今でもよく触ります。
床。ボコボコになってきています。
洗面所の鏡、雑貨屋で買ったのを壁に掛けただけ。枠は自分でペンキを塗りました。
洗面所の棚はホームセンターで買った板にペンキを塗っただけのもの。
階段の手摺り。どんどん丸みを帯びている気がします。
トイレの扉に付けた取っ手と鍵。自分で探して買いに行きました。かなり古めかしくなってきましたが、手に触れるところはツルツルと輝いてきました。ドアも自分でペンキを塗りました。そしてペンキも剥げてきました。そのままにしておくか同じ色で塗るか、違う色で塗るか、考え中です。
ウッドデッキに付けた蛇口。その頃のTOTOのカタログから選びました。普通の蛇口ですが、握り具合が好きです。
ウッドデッキも朽ちてきました。雨風に晒されてきた木材はカッコいいなと思います。ちょくちょくこうやって金具で補強しています。
板金屋さんに作ってもらったレンジフード。ザラザラしています。デカいです。
子どもが階段から落ちないようにと付けた網と、ホームセンターで買った杉板を重ねて作った扉(犬の後ろ)。もう落ちることはないと思いますが、付けたままです。
無駄のある家
白洲次郎と白洲正子の家の考え方に共感します。白洲次郎41歳、正子33歳の時。武蔵と相模の文字をとって、武相荘(ぶあいそう)と名付けられた家に移りました。今も公開されています。
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無駄のある家
鶴川の家を買ったのは、昭和15年で、移ったのは戦争がはじまって直ぐのことであった。別に疎開の意味はなく、兼ねてから静かな農村、それも東京からあまり遠くない所に住みたいと思っていた。現在は町田市になっているが、当時は鶴川村といい、この辺に(少なくともその頃は)ざらにあったごくふつうの家である。手放すくらいだからひどく荒れており、それから30年かけて少しずつ直し、今もまだ直しつづけている。もともと住居はそうしたものなので、これでいい、と満足するときはない。綿密な計画を立てて、設計してみた所で、住んでみれば何かと不自由なことが出て来る。さりとてあまり便利にぬけ目なく作りすぎても、人間が建築に左右されることになり、生まれつきだらしのない私は、そういう窮屈な生活が嫌いなのである。俗にいわれるように、田の字に作ってある農家は、その点都合がいい。いくらでも自由がきくし、いじくり廻せる。ひと口にいえば、自然の野山のように、無駄が多いのである。牛が住んでいた土間を、洋間に直して、居間兼応接間にした。床の間のある座敷が寝室に、隠居部屋が私の書斎に、蚕室が子供部屋に変わった。子供達も大人になり、それぞれの家庭を持ったので、今では週末に来て、泊まるへやになっている。あくまでそれは今この瞬間のことで、明日はまたどうなるかわからない。そういうものが家であり、人間であり、人間の生活であるからだが、原始的な農家は、私の気ままな暮らしを許してくれる。30年近くの間よく堪えてくれたとありがたく思っている。
白洲正子(人と物12)/MUJI BOOKS より
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