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父子のやりとりの面白さだけじゃなく、最終的にはその向こう側が見えなきゃいけないんだろうなと。後編
落語家 春風亭一之輔さん
家族構成:妻、息子(中1)、息子(小4)、娘(小2)
【オトンの流儀とか】今回は、落語家の春風亭一之輔さんです。今は江戸時代以来の落語ブームだと言われています。そんな中、ほぼ毎日、年間約900席の高座にあがっているのだとか。おそらく落語会で一番喋っている一之輔さんですが、十八番のひとつが、オトンと子どものやりとりを描いた古典落語の「初天神」。家庭では3人の子どものオトンでもあります。いろいろお話を伺いました。後編です。
聞き手:oton+to編集長 布施太朗 大山あず紗 写真:島野大輝
第2回後になって反省することは多いんですよね。子育てってね。でもその頃はもう中学生で、ほぼ手が掛からない。
まあ朝から怒ったりしていると、もう雰囲気が悪くなりますから。怒る連鎖が起きちゃいますからね。
―確かに。ちなみにお子さんを見ていて、他に自分に似ているなと思う所はあります
一番上の子の何考えてるか分からないところ。あまり感情を表に出さないといいますか。
―何考えてるか分からない。
私も何考えているか分からないと言われますから。まあ何も考えてないですけどね(笑)。もともと、普段は喋んない方ですし。
―不気味がられますか?普段の一之輔さんは。
あははは。不気味がられているところはあるかもしれない。直接「不気味ですね」とは言われないですけど。長男なんかも、一人でずっと本を読んでいたりとか、そういうことが楽しいタイプかな。
―さっきの外面でいうと、具体的には?
学校ではちょっとリーダーシップがあったり、みんなの前で喋るとかも普通に出来たりするんですよね。そういうところです。
―スイッチがあるんですか?
どうなんですかねえ。度胸が据わってるなとは思います。小学校を卒業する時も、6年生代表の挨拶を、自分で立候補して、原稿用紙4枚くらいを自分で書いて暗記してやっていました。先生が書いた原稿があったんですが、自分で書き直して。
―お父さんの“まくら”を入れたりとか?
あははは。でも真面目なこと書いてましたよ。「あんまり面白くねえな」とか言いながら。
―人前で喋ることを仕事にしているお父さんの影響もあるんですかねえ。
変な使命感みたいなのがあるかもしれないです。「僕がやらなきゃ誰がやる」みたいな。でもね、ウチじゃずっと漫画読んでるんですよ。
―その漫画は一之輔さんも読んだりします?
というより、だいたい僕が薦めた漫画とかです。あとはカミさんの漫画とか。しょっちゅう読んでるのは「3月のライオン」とか、こないだは「まんが道」とか。家に僕が無造作に置いているのを勝手にに読んだりしています。
―自分が面白いと思ったものを、息子さんも面白がっているのは嬉しい?
そうですね。僕が息子と同じくらいの歳に読んだ漫画を持ってくると嬉しいですね。
―一之輔さんの仕事場に連れてくることは?
たまにあります。上の子が1年生くらいの時からですかね。カミさんが忙しい時は、ひとり連れて。席空いたら「座って見てろ」って言って。あと楽屋に連れていくとかね。
―客席にいる息子さんは気になりますか?
国立演芸場で、子どもが後ろのほうに座っていたんですよ。どこに座れとは言わなかったんですけど、多分係の人に案内されたのかな。跳ね上がる椅子ってあるじゃないですか、映画館とかにあるような。でも、まだ1年生くらいで体重が軽いから、座ってるうちに持ち上がってきちゃうんです。それで一生懸命椅子をグーって抑え込むんですけど、また上がってきちゃって。それが気になってしょうがなくてね。
―その様子をその場でネタにしたりは?
いやいや、しません。いじらない。他のお客が気になっちゃうから。でも、自分の働いている姿を見せられる仕事で良かったなっていう気はします。
―なるほど。
前からも見せられるし、裏の、楽屋で他の人が働いている姿もね。お父さんの仕事、落語をやる上で、どれだけの人が周りにいるかとか、面倒見てくれてるのかっていうのが分かるのはいいかなと。
―じゃあ、積極的に見せてあげたいと思われているんですね。
そうですね、出来れば。寄席だといろんな先輩もいて、挨拶してお小遣いもらえたりもしますし(笑)。別にもらいに行くわけじゃないですけど、挨拶して礼儀正しくしていれば、周りの人たちは可愛がってくれます。親以外の大人と接する機会があるのはいいですね。
―一之輔さんのお弟子さんとお子さんの関わりは?
つまんないこと喋ってますよ。でも子どもに言うのは「お父さんの弟子であって、君たちの弟子じゃないんだから、無理なこと言ったり、あれやれ、これやれっていう関係じゃないから。ちゃんと挨拶して、何かしてもらったらお礼を言って、礼儀正しくしなさいよ」と。噺家の世界って、師匠の弟子だから自分よりも立場が上とか、僕のほうが偉いんだって勘違いしがちなところがありますから。古い世界なんでね。
―お弟子さんが一之輔さんに怒られている姿もお子さんは見ます?
そうですね、見ますね。
―そのお弟子さんが息子さんの兄弟子になるのはいつですか?若貴みたいに。
いやいや(笑)。うちの子はならない。大変ですよ、自分の子どもを弟子なんかにしちゃったら。ダメダメ。
―そうすると、どの師匠に預けましょうか?
いやいや、落語家にはならないですよ。ならない。
―例えば息子さんが隠し持っていた落語全集DVDが部屋から見つかったりしたら、お父さんは嬉しい?「おまえ、そうだったのか、、、」って。
いや、ダメダメダメダメ!でも、そういう意味では娘が一番華があるかもしれないです。
―ほう!どんな花を開かせたいですか?
いやあ、幸せになってもらえばそれでいいです。食うに困らないくらいの感じで生きてってもらえれば。何やったって迷惑かけなきゃいいと思います、人に。自分の力で生きてってもらえれば。うーん、なんだろう、自由というか放任っていうか、自分で見つけてもらいたいですけどね、そういうのをね。だからいろんなものを見せてあげたりはしたほうがいいんだろうなと思います。可能性、間口を広げるためにはね。
―ひとつのことしかお子さんに伝えられないとしたら?
ひとつだけねえ、何だろうなあ。息子の小学校の卒業式の企画で、親が子どもに手紙を書くというのがありましてね。そこでは、自分ひとりで生きているんじゃなくて、いろんな人が自分を生かしてくれているんだよ。だから、人に優しくすれば周りも君にそうしてくれるかもしれないから。というようなことを書きました。
―なるほど。
独りよがりになっちゃうと良くないなと思うので。僕の商売なんかも一人でやってるんでね、そう思いがちなところがありますし。でもお客さんが来てくれないとどうしようもないんです。そしていろんなことをセッティングしてくれるスタッフの人とか、演芸場の従業員の方とか、寄席で働いている前座さんもそうだし。そういう人たちがいるから高座をつとめられるので。そういうことも書きましたね。
―息子さんの手紙の反応は?
何も反応がない。
―反応がない?
何も言いやしない。
―反応待ってましたよね。
なんか言うのかなって思ったらね、何も。「手紙読んだのか?」って言ったら「ああ、読んだ」って。まあ渡されても困りますね。自分が6年生だったらムズムズすると思いますから。
―では、子育てとは◯◯である。◯◯には何が入りますか?
自分を省みること、というのはありますね。できてないですけど。で、ようやく省みた頃には、子どもはもう大きくなっちゃってるんですよね。
―早いですか?大きくなるのは。
早いですね。小さい頃は早く大きくなれと思ってましたけど。兄弟全員が保育園に行ってる時なんか、早く成人しろと思ってましたから。でも後になって反省することは多いんですよね、子育てってね。でもその頃はもう中学生でほぼ手が掛からない。これカミさんが聞いたら「あんた、ほとんど何もやってないくせに、そんな偉そうなこと言うな」って言われそう。やってないことはないと思うんだけど。
―ちなみに漢字一文字で表現するとすればどんな漢字を書きますか?子育てでも、生き方でも、家族に対してでも。それを居間に飾るとしたら。
程々の「程」ですかね。適当と言っちゃあれですけど、気楽にやった方がいいと思うんで。「楽」でもいいですけど。程をわきまえるのほうかな。ダメならしょうがないってとこ。だから「程」。
―「程」なるほど。そんな中、もっとこうしたほうがいいなと思うことってありますか?
子どもと接する時間をもうちょっと作んなきゃというのはあります。
―その分高座に上がっているんですね。
高座上がって酒飲んでるっていうね。だから、朝は必ず起きるようにしています。
―そうですか。朝ごはんは一緒?
はい。絶対に朝ごはんは一緒に食べます。
―そこでは喋ります?
喋るようにはしているけど、みんな朝弱いんで、みんなでぼんやり食べてます。僕は二日酔いだったりしますし。でも、同じ時間に「いただきます」というのはしようと思っています。
―あははは。
「布団の中で寝かせてください」と謝ります。でも2時までだったら7時には起きます。
―2時だと起きて、4時だと謝る。
はい。でも僕らよりちょっと年配の噺家だったら、普通に朝寝てて子供が学校行った後の11時くらいに起きてくるっていう人もいっぱいなんです。そんな先輩たちからは「お前、そんな生活してんのか?そんなにカミさんに気を遣って生きてんのかよ」なんて言われますよ。
―言われますか?
言われます、言われます。子どもの送り迎えとかも、上の人はそんなこと一切したことないですから。まあ、そういう芸人というのは、大概、家庭不和になりますけど(笑)。奥さん大変ですからね。でもまあ時代ですね。上の人もそう言います。「時代が違うんだなあ」って。
―一之輔さんと同世代の方は、送り迎えしている人が、、、
多いですね。そうしないと回らないです、噺家一家も核家族ですから。
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