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父子のやりとりの面白さだけじゃなく、最終的にはその向こう側が見えなきゃいけないんだろうなと。
落語家 春風亭一之輔さん
家族構成:妻、息子(中1)、息子(小4)、娘(小2)
【オトンの流儀とか】今回は、落語家の春風亭一之輔さんです。今は江戸時代以来の落語ブームだと言われています。そんな中、ほぼ毎日、年間約900席の高座にあがっているのだとか。おそらく落語会で一番喋っている一之輔さんですが、十八番のひとつが、オトンと子どものやりとりを描いた古典落語の「初天神」。家庭では3人の子どものオトンでもあります。いろいろお話を伺いました。2回にわたってお届けします。
聞き手:oton+to編集長 布施太朗 大山あず紗 写真:島野大輝
第1回家族みんなでテレビを観るっていうのはけっこう大事だったのかなと思います。
―よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
―シャツの柄、パンダですね。
そうです。意外と主張が強いパンダです。
―パンダといえば上野で、今日のこの場も上野ですが、上野にはよくいらっしゃいますか。
そうですね。仕事場ですからね。仕事の合間にこのあたりの古い純喫茶なんかにもよく行きます。古城っていう喫茶店もすぐそこにあって。
―あははは。
ずーっといても何も言われないし、なんだかんだ使い勝手がいいです。そこで原稿をね、ガラケーで書いています。
―ガラケーで原稿を書かれている。
ずっとそうなので、もう慣れました。あと、パソコンも家にしかないし。買えばいいって話ですけど。
―家では仕事をされますか?
ほとんどしませんね。噺なんかは歩きながらです。
―歩きながらですか。
歩いているペースが合うのでね。落語の自然体というかリズムには。僕は座って家でやるよりは外で散歩しながら小声でしたりする方がいいですね。その時に思いついたことがあれば、ちょっとメモしたり。
―散歩コースは決まっていますか?
寄席から寄席を歩く時はだいたい決まってます。だから上野から浅草の移動はもう散歩にしちゃいますね。上野から日本橋とかも時間があれば歩きます。
―歩いているときは、ひとつの噺を全部やるんですか?
全部はやりません。なんとなく「今日やろうかな」という話を断片的にやってみて、確認するという感じですね。
―楽屋にはどのくらい前に入られますか?
寄席の場合は30分前です。それで、帳面を見て、今日はみんなどんな噺をやっているのかって確認して決めます。
―他のインタビュー記事で読んだのですが、「初天神」に出てくる子ども“金坊”は、実際の息子さんの発言を参考にされているとか。
うんうん。「初天神」は長男だったり次男だったり。最初やり始めた時はまだ結婚もしていなくて子どももいないから、「初天神」っていうのはあんまりピンとこなくて。でも、登場人物の子どもの歳に自分の子どもが近づいてくると、「そうか、こういう気持ちでやればいいんだ」ってことを思いましてね。金坊は、9つですが、息子を見ていて、モノをねだる時とか、親の顔を伺うような時の表情とか「ああ、こういう表情するんだ」と気づく感じです。怒ったりふてくされた時なんかも。
―なるほど。
そのままコピーはしませんけど、子どもって、大人が思うほど純粋じゃないですよね。自分もそうでしたけど。そういうところをちょっとオーバーに演ってます。
―実際の父と子の会話も、初天神みたいなやりとりになりますか?
いや、もう本気で怒ってますよ、僕は。怒るというか「ああしなさい、こうしなさい」って。でも子どもからすると「また言ってるよ」みたいに思われている感はありますね。親父だってそんなにちゃんとしてないっていうのも子どもたちはみんな分かっている。見透かされているとこはありますね。
―直接言い返されたりとか?
「パパだって着替えてないじゃないか!」って言われます。でも「パパはすぐ着替えができる。でもお前らは遊んで手が止まるんだから、パパはまだいいんだ」って言ったら「ずるい」とかなんとか言ってきます。でも自分が子どもの頃もそんなことばっか言ってたなって。繰り返しですよね。
―やっぱり初天神の父子のやりとりに重なりますね。
親子は似た者同士というのが根底にありますからね。人が見た時、どっかの子どももあんな感じだったなあなんてことが透けて見えればいいのかなとは思います。そして、父子のやりとりの面白さだけじゃなく、最終的にはその向こう側が見えなきゃいけないんだろうなと。
―その向こう側っていうのは?
何ですかねえ、ワーワー言ってるけど、親子の、まあ単純に言えば、親子の情愛というかね。
―一之輔さんが子どもの頃ってどうでした?
僕は4人兄弟の末っ子なんです。上3人がみんな姉で歳が離れているんです。一番下の姉とも7つ違うので。
―すごく可愛がられていたんじゃないですか?
可愛がられるのも、バカみたいに可愛がられるとか(笑)。それよりも放ったらかしに近いですね。でも姉全員、母親のような感覚ですね。
―なるほど、どのお母さんが一番好きですか?
うーん、どれも帯に短しタスキに長しです(笑)。でも楽しかったですよ。だからですかね、大人と喋るのは苦ではなかったです。
―小さい頃から喋ることは好きでしたか?
小さい時はそうでもないです。小学4年生くらいに、別に普通に喋っても大丈夫なんだなと思うきっかけがありまして。その時の先生が、朝、スピーチのコーナーを設けて、クラスのみんなが日替わりで喋るというのがあったんです。そこからですね。その1回目で、「あ、もしかして俺はいけるんじゃないか」って(笑)。
―どんなことを喋ったか覚えていますか?
つまんないことですよ。たぶん、親に怒られたとか、おならしたとかいうそれぐらいの。まあ、お笑いとかはそれまでも好きでしたから。姉が観る番組ばっかり観ていて。
―どんな番組を観てました?
そうだな、ドリフとかひょうきん族とか、ベストテン、トップテン、ヒットスタジオ、あと夕焼けにゃんにゃんとかね。あとドラマとかも姉と一緒に観てたから、マセた感じになりますよね。同級生と話していても「お前らまだまだ子どもだな」と。とにかくテレビはずーっと観てました。ずーっとテレビがついているウチでした。
―今もテレビは家でずっとついていますか?
いや、今はねえ、カミさんがあまりテレビを観せないというか、うーん、どうなんですかねえ。
―何か思うところがありますか?
飯食ってる時にテレビを観ていると同じ話題になるんですよねえ、家族が。今は、食べながらテレビはよくないっていう考え方で、観ないですけど、もしかしたら、テレビ観ながらご飯食べるほうが良かったなのかなあという気がします。皆で観ることができるテレビ番組がいっぱいあったということかもしれませんね。それに、今はテレビを観る時間を1日1時間というルールにしているので、そうなると子どもたちはアニメとかになっちゃいますから。アニメ1時間だったら、僕もカミさんもあまり観ないですしね。だから、家族みんなでテレビを観るっていうのはけっこう大事だったのかなと思います。
―なるほど。なんか新鮮な意見です。でもそれが一之輔さんの家でも実現されない?
うーん、難しいですね(笑)。ウチの子どもたちは、そうなると他のこと何もしなさそうだから(笑)。あとはまあみんな塾や習いごとで忙しいですから。空手にピアノに水泳にね、僕が子どもの頃と比べて、まあ忙しい。そんなに忙しくしなくても良いんだろうなと思いつつ。
―習いごとはお子さんが行きたいと?
基本みんな子どもが行くって言い出しました。塾行きたいっていうのもそう。「行きたいんなら行けば」って。勉強したいというのを「するな」というのもなんかねえ(笑)。あと、娘は日本舞踊ですね。カミさんがやっているので一緒に通っています。
―なるほど、お母さんがやっていて。お父さんと一緒に落語というのは?
それはないです。
―お子さんの空手を見ていて、お父さんもやりたいなというのは?
やりたくない。痛そうだし。僕はガラスの向こうから見ています。でもなかなか行けなくて、試合とかも1〜2回ぐらいです。行けたのは。
―どうでした?
面白いですねえ。負けて泣いたりとか。僕なんかはたまにしか練習しているところをちゃんと見ていないじゃないですか。でも、他のお母さんなんかはいつも送り迎えをちゃんとして、一緒にやる人もいたりして、負けて泣いている子どもと一緒に泣いたりとかね。そういう時間の共有というのをできないことがね。「自分も時間があればなあ」と思います。だから、時間を共有出来ていない分、距離があるというか。まず子どもの友達の名前が覚えられないですし、顔と名前が一致しない。誰々のお母さんって言われてもよくわからない。
―お子さんの担任の先生の名前は?
ああ、一番上が◯◯先生、2番目が△△先生で3番目が□□先生。あっ、言えた!言えました!!
―おおっ!
学校、近いんですよ。歩いて1〜2分くらいで、けっこう行くんです、土曜の午前中に。授業参観というか、今は公開授業っていうんですかね。
―見ていてどうですか?お子さんが手を挙げたり?
してますね。ドキドキします。通知表に書いているのと、ウチにいる時じゃ全然違います。学校じゃ褒められてるんです、整理整頓もできるし。でも家に帰ってくると全然ダメ。親も一緒ですけどね、外面がいいところは似ているのかもしれません。だからといいますか、最近はなるべく怒らないようにしようと思っているんです。
―自分も同じだから怒らない?
僕が怒るとカミさんが怒るから(笑)。
【第2回】に続きます
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