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「親やから」とか「男やから」とか、おかしなこと言いよるわ、エラそうに。【後編】
芸人 千原せいじさん
家族構成:妻、息子(中3)
【オトンの流儀とか】今回は千原せいじさん。中3になる一人息子のオトンです。自分が子どもだった頃と今の違い。自分の親と親になった自分の違い、仕事で訪れるいろんな国と日本との違い。2回連載でお届けします。せいじさん言ってました。「バランスが悪い」と。後編です。
聞き手:oton+to編集長 布施太朗 写真:島野大輝
第2回すごいイヤやったんです。買うたらあかんとか、我慢せえとか言われてたのが。そのくせ、親父が好きな野球のものとかはすごい買い与えよるんです。親が我慢できてない。
―息子さんと一緒にやりたいことってあります?
もうすぐ16歳で単車の免許とれるから、2台でどっか行こうかなとか。
―そうかもうすぐ16歳。
そうですね。来年の春が来たら中学卒業。ジュニアが中学卒業した6月に吉本に入ってるんです。もうそんな歳になったんやなと。まあ別にそれが寂しいというわけじゃないけど。
―息子さんは将来何になりたいとかなりますか?
「農業したい」って言うてました。
―へえ!
といっても、俺らの時の農業いうたら、畑耕して種植えて水やってでしょ。息子が言ってる農業は、全部もうドローンで一気にドワーですから。だからもう全然よう分かりませんわ。今は選択肢が増えてるから分かんないです。でも今の子はよう知ってる。大人が思ってる以上にね。学校の先生もそりゃ立場ないと思うわ。先生が知らないことのほうが多いと思う。
―この時代にせいじさんが15歳だったら、吉本に入ってました?
絶対入ってないですね。入ってないです。入ってない!
―あははは。
まず、芸人という選択肢がない。今の時代でいうとユーチューバーとかやろう思ってたんちゃいます?でもあいつらは別に発注を受けてやるんじゃないですもんね。勝手にやってるから。そこがよう分からへん。自分が昔、この職業を選んだ時は、学校に行ってなくてもみんなにチヤホヤされていっぱいお金がもらえる職業ってなんやろって考えた時に、芸人しか思いつかなかったからなんです。好きやったというのもありますけど、それしか知らなかったですから。その頃は、プロレス好きのやつはプロレスラーになりたいとか、カラダがデカイからオマエは相撲取りになれとか、そんなんばっかりでしたからね。今から考えるとまだまだ発展途上の国でしたもん。
―たしかにそうですね。
いろんな国に行きますやん。行った先で、ああ、俺が子どもの時はこんなんやったなあって思いますから。日本が先進国になったのなんか最近ですよ。でも人でいうと、まだまだ先進国とは言えないと思いますわ。発展途上の時の日本でガンガンやってた人たちが、今の日本でめちゃくちゃたくさん現役でいてますから。そりゃ、今の子らと合わんて。
―発展途上マインドの人が多いんですね。
多いですよ。今の子たちはちゃんと言うたら聞くけど、だいたい無茶苦茶なこと言うて「わし大丈夫や」って飲酒運転するの、ジジイが多いでしょ。若いやつもおるけど。印象としては、圧倒的にジジイのほうが多いんとちゃいますか。
―なるほど。
不愉快な思いさせられるの、ジジイババアが多いですもん。変なタイミングで「サインくれ」とかね。「えっ!今?」みたいな。車の運転とかも、割り込んだり、入れへんようにキュッと前に詰めるのはオッサンですわ。若い人はどうぞどうぞっていうのが多いです。だからオッサンとオバハンは人間が発展してへんのです。
―いろんな国に行かれて、せいじさんが子どもの時を思い出すのってどんなシーンですか?
原付をノーヘルで走ってたり、タバコ咥えたまま赤ちゃんを抱っこしてるオッサンとか。男がエラそうとか。
―男がエラそう?
そう。もう男って言うだけでエラそう。何やそれ、たまたま男なだけやないかいって。
―2分の1ですもんね。
たまたま男になっただけやん。オマエが努力したんかと。アホちゃうかって。そんな風にエラそうにしてんの、日本やと僕らより上の世代が多いでしょ。政治家とか。
―さっきの「お父さんやから」っていう話に近いですね。
親やからどうとか、親やからちゃんとせなあかんとか。親じゃなくてもちゃんとせなあかんところはちゃんとせなあかんし。
―話はちょっと戻りますが、息子さんがバイクの免許とって、「バイク買ってー」と言われたら?
ああ、全然買います。大概のものは買います。自分が子どもの時すごいイヤやったんです。買うたらあかんとか、我慢せえとか言われてたのが。この我慢せえってなんの意味があるんやろって思うてましたから。そのくせ、親父が好きな、例えば野球のものとかはすごい買い与えよるんです。そこっておかしいじゃないですか。我慢させるのがええんやったら別に全部買うなと。親が我慢できてない。
―なるほど。
おかしなこと言うわ思うて。野球のものを買うにしても、説明が無かったんです。例えば「俺はこういうの好きや、だから買うたるわ」とか。それならこっちもね、親父が興味持ったり好きになったら買うてくれんねやって思うから、親父に対してのプレゼンの方法とか考えることできますやん。
―そういえば、何かのインタビューで読みましたが、合体ロボの頭しか持ってなかったと。
そうですそうです。合体ロボやのに頭だけとか多かったんで。Nゲージのレールだけとか。まあ高いんで、一気に買うたらあかんというのはあったんでしょうけど。
―他、子どもの頃に感じたことってあります?
江戸川乱歩シリーズですね。
―さっき話に出た江戸川乱歩?
小学校の時、俺、本が好きやったから江戸川乱歩全集が欲しいって言ったんです。怪人二十面相とか、子ども用の本がありますやんか。それをオカンに言うたら、えらい怒り出して。なんで怒ってんねやろうと思うたら、大人のほうのエロい江戸川乱歩シリーズを買えと息子が言うてると思ったんですね。オカン、子ども用に書いてるのを知らんねやって思うたら、すっごい悲しい気持ちになったのを覚えてます。大人の江戸川乱歩シリーズの全集を買えなんて、小学生が言うわけ無いやろ、アホちゃうかって。
―ところで、息子さんに、たったひとつのことしか伝えられないとしたら、なんて言います?
生きろ。
―生きろ。
とりあえず生きろ。こないだ、日本に来たキューバ人と仕事で一緒になって。
―南米のキューバですね。
まだ配給制が残っているんですって。例えば「卵ってどれくらい配給してくれんねん」と訊いたら。買おう思うたらもちろん買えるんですけど、卵の配給は月で6個やと言うんです。
―へえー。
赤ちゃんもおじいちゃんも一人とみなして、この世帯やったら月に30個とかになるらしいんです。買わずにもらえる卵が。でもまあ少ないなあと。そのキューバ人に「お前、日本に来てめっちゃ卵食べたんちゃうか」と訊いたら、ホンマにようけ食べたと。「こんなに卵がいっぱい食べられることない」って。ちなみに「子どもの頃は腹いっぱいになったことがない」と言ってて。
―腹いっぱいになったことがないと。
「でも、子どもの頃は腹減ってたけど楽しかったあ」って言うててね。俺なんか腹いっぱいにせな何やっても楽しないけどみたいな話をしながら訊いたんです。「日本に来てどう思った?日本の生活は?」って。
―うんうん。
俺としてはその彼が、楽しかったとか楽しなかったとか、そういう話になるんやろなと思ってたんですけど、彼はビックリしたと言うたんです。
―ほう。ビックリしたと。
「何にビックリしたん?」て訊いたら「日本はこんなにモノがある。子どもが虫歯になるくらい甘いもんが食べられる、毎日お腹いっぱい。服も靴もある。ペットも飼える。こんなええ国やのに、なんで何万人も自殺すんねん」と。「この国は狂ってる」と。自殺したとかいうニュースを観て、もうホンマにビックリしたと。キューバではそんなん聞いたことない言うて。
―キューバではあり得ない話。
いやもう確かに!と思ってね。そういうことを考えてしまうほどの国かと。だからね、この国で子どもに言う一言は、「生きろ」。そう言わざるをえない。キューバやったら「生きろ」とは絶対言わへん。言う必要がない。「死ぬな」とは別ですよ。内戦の国とかやったら、「絶対死ぬなよ」って言うことも必要じゃないかと思うんです。それは、自分で自分の身を守れよという意味で。でも日本は生きろっていうことを言わんとあかん、おかしな、狂った国なんです。
―おかしな、狂った国。
バランス悪いことになってるんです。たくさんの情報を得ていて圧倒的に賢い子どもらを、発展途上やった頃の発想のやつらが教育しよるから。
―なるほど。
バランスが悪い。こんなんで大丈夫?
―はい。がっつりせいじさん節だと思います。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
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今回の"オトン"なアーティストは、
千原せいじさん
家族構成:妻、息子(中3)
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