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お父さんの絵本ガレージ
2021.9.27
お父さんの絵本ガレージ 非認知能力を育む絵本 「やり抜く力」編
2020年春から継続中の、非認知能力を育む絵本シリーズ。現在、非認知能力には世界の注目が集まり、日本の新たな学習指導要領にも、幼児・学校教育を通じて育むべき力のひとつに、非認知能力(学びに向かう力・人間性など)が提唱されています。IQなどで表現される「認知能力」と、やる気や根気強さなど学びに向かう姿勢の土台となる「非認知能力」。これらをバランスよく身につけることが、教育界における大きな関心事となっているのです。
この非認知能力には様々なものがありますが、今回は「やり抜く力」をピックアップ。やりぬく力はGRIT(グリット)とも呼ばれ、ペンシルバニア大学の心理学者ダックワース准教授が「成功を予測できる性質」として発表して以来、大きな話題となっています。どこかで耳にしたことがあるお父さんも多いのではないでしょうか。「ゴールに向けて、興味を失わず、努力し続けることができる気質」と定義され、才能とは相関関係がなく、こころの持ちようで伸ばすことができるとも言われています。自分の能力は努力によって伸ばすことができる……親や教師からそのようなメッセージを定期的に伝えられた子どもはやり抜く力が強くなることも、研究によって明らかになっています。
こうした非認知能力について言葉だけで説明するのは難しいですが、幼い子にもわかりやすく、やさしく伝えられ、親自身も子どもの気持ちに寄り添いながら理解するのに役立つツールとして、絵本を開いてみませんか?何より絵本は、親子いっしょに楽しみながらくり返し読めるところが、大きな魅力ですね。主人公のトライ&エラーを疑似体験しながら、やり抜く力について考えられる5冊を選びました。
① 『はじめてのおつかい』
作:筒井 頼子 絵:林 明子 出版社:福音館書店 発行日:1977年
対象年齢:3歳くらい~
おつかいの喜びと不安いっぱい
40年以上読み継がれるロングセラー
まずは、初版発行から40年以上のロングセラー、ちいさな女の子の大冒険です。5歳のみいちゃんが、お母さんに頼まれて、妹の赤ちゃんのためにひとりで牛乳を買いに行きます。途中で転んで100円玉を落としたり。商店のおばさんに自分の声が届かなかったり……。はじめてのおつかいにゆれ動く子どもの繊細な気持ちを、見事に描ききっています。細やかな描写に遊び心が詰まっているのも、見所のひとつ。お家から出かけたみいちゃんは、右手と右足がいっしょに出ていたり。ポスターに描かれている迷い猫が、どこかのページを歩いていたり。ぜひ父子でいろいろな発見を楽しんでくださいね。
子どもが日常の中で、ささやかでもひとつのゴールを決めてやり抜く体験を重ねられるかどうかは、親の工夫次第ですね。バーチャルな世界が身近になっている現代ですが、もちろん安全には考慮しつつ、リアルな世界で様々な社会体験をする機会が、子どもには必要なのではないでしょうか。表紙は、牛乳を手にしたみいちゃんの笑顔。達成感や充実感、こみ上げる嬉しさが伝わってきます。
② 『はちうえは ぼくに まかせて』
作:ジーン・ジオン 絵:マーガレット・ブロイ・グレアム 訳:森 比左志 出版社:ペンギン社 発行日:1981年
対象年齢3歳くらい〜
鉢植えの世話をアルバイトに
男の子のひと夏の成長物語
2冊目は、男の子のひと夏の成長を描いた絵本。夏休み、仕事が忙しいお父さんに「どこへも行かないから、何でも好きなことをやっていい」と言われたトミー。近所の人たちが旅行に行っている間に、鉢植えを預かるアルバイトを思いつきます。トミーの懸命なお世話のおかげで植物たちはぐんぐん育ち、家の中はジャングルのように。忙しいお父さんはしかめっ面ですが、トミーは植物たちを活き活きと育て上げ……。
黄、青、緑だけで表現された、さわやかな画面が印象的な1冊。作者のジーン・ジオンとマーガレット・ブロイ・グレアムはご夫婦で、ロングセラー絵本『どろんこハリー』と同じコンビ。このお話は、休暇中の鉢植えの世話をどうするか、という長年の悩みをもとに作られたそう。自分で決めたことに責任をもって取り組むトミーの姿は、頼もしく、まぶしいくらい。見守るお父さんとお母さんの表情の違いにも注目です。夏休みを終える頃、お父さんから伝えられるどんでん返しの言葉が痛快!子どもが喜ぶラストシーンをお楽しみに。
③『パパとタイガの とびっきりキャンプ』
作:セバスチャン・ブラウン 訳:聞かせ屋。けいたろう 出版社:教育画劇 発行日:2021年
対象年齢:3歳くらい〜
お父さんが大活躍!?
父子の初キャンプの結末は……
3冊目は、今年出版されたばかりの新刊です。お休みの日にキャンプに行くことになった、タイガとお父さん。キャンプに憧れていたタイガは、テントで寝て、カヌーに乗ってと想像し……ワクワクが止まりません。ところがキャンプ初心者のお父さんは、テントを張るのも火をおこすのも、失敗続き。隣のクマのお父さんが声をかけても「ふたりでできますから」と断ってしまいます。さて、父子の初キャンプの結末は!?
一見ドジばかりのお父さんですが、わが子と2人の時間を大切に粘り強く行動する姿勢が、だんだん頼もしく思えてきます。前述したダックワース准教授は、自ら家庭で実践したルールのひとつに、親も目標を持って難しいことに挑戦することをあげています。お父さんの背中を見せる、そこから子どもは深く学んでいくのですね。こんな風にとびっきり思い出深い体験を重ねながら、父子の絆を強めてほしいなぁと、ひとりの母としても想うのです。聞かせ屋。けいたろうさんの訳が小気味よく、いくつも出てくる童謡を父子で歌いながら読むのも楽しい1冊です。
④『しっぱいなんか こわく ない!』
文:アンドレア・ベイティー 絵:デイヴィット・ロバーツ 訳:かとう りつこ 出版社:絵本塾出版 発行日:2017年
対象年齢:5歳くらい~
夢は世界一のエンジニア!
失敗を恐れない魔法の言葉とは
何かをやり抜くためには、失敗を恐れない気持ちも大事ですね。続いては、世界一のエンジニアを夢見る女の子の物語。ロージーはいつも、誰にも見られないよう“秘密工場”でメカを作っています。そのきっかけは、一所懸命に作ったメカを大笑いされたことがあるから。ある日、若い頃に飛行機工場で働いていた大おばさんがやってきて、自分で作った飛行機の話を聞かせてくれました。そしてまだ叶っていない「空を飛んでみたい」という夢を聞き、ロージーは空飛ぶメカ作りに挑戦することに!
アメリカの女性宇宙飛行士が、宇宙から子どもたちに読み聞かせしたことでも話題となった1冊。“失敗は成功のもと”ということわざがありますが、大おばさんも「いまのしっぱいは、だいせいこう!」と、結果よりもプロセスが大切なことを伝え、ロージーを励ますのです。わが家ではくり返しこの絵本を読んでいた息子が、ぬり絵をしながら「しっぱいなんかこわくないよね」とつぶやいたことがありました。幼い子を安心させてあげられる、物語と言葉の力を感じました。
⑤『あな』
作:谷川 俊太郎 絵:和田 誠 出版社:福音館書店 発行日:1983年
対象年齢:4歳くらい〜
たかが穴掘りされど穴掘り
谷川俊太郎×和田誠の名作
最後に、詩人・谷川俊太郎さんとイラストレーター・和田誠さんによる傑作ロングセラーを。日曜日の朝、何もすることがなかったので、ひろしはあなを掘り始めた。お母さんが来て「なに やってるの?」。お父さんが来て「あせるなよ、あせっちゃ だめだ」。ひろしは深く深く掘り続け、穴の底に座り込んだ。静かで、土のいいにおいがして、ひろしは思った。「これは ぼくの あなだ」。
この絵本の大きな特徴は、縦開きであること。定点観測でページをめくっていくほど穴が深くなるので、読者はひろしの世界にどんどん引き込まれていきます。一心不乱に穴を掘り続け、底に座って、また埋める。一見意味のないように見えますが、子どもにとっては親しみがあり、大人にとってはなんだか懐かしい、そんな光景かもしれません。きっと穴掘りの経験があるのでしょう……お父さんがひろしの穴をみて伝えた言葉も印象的。表紙に描かれているのは、ひろしが穴の中から見上げた空。何かをやり抜いた子にしか見えない風景は、ハッとするほどシンプルで、深い余韻を残します。
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選書:フリーアナウンサー/絵本専門士 近藤麻智子
大人向けの絵本セラピー®のワークショップ「絵本のち晴れ」や、
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ブックハウスカフェ
神保町のブックハウスカフェ店内には「お父さんの絵本ガレージ」コーナーがあり、 oton+toで紹介した絵本が並んでいます。
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父親が子どもとがっつり遊べる時期はそう何年もない。
布施太朗・著¥1,300(税抜)
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