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オトンと仲間さんの記事

2019.3.10

妻の瞳に映る情景

■oton+to編集部 泉信二 5歳の娘 4歳の息子のオトン

朝は慌ただしく動く妻を横目に、自分の身支度をそそくさと済ませて出かけるのが私の日常である。ある朝、妻から子どもたちのサポートを頼まれた。リビング中央で着替える姉の周りをぐるぐる走り回る弟の姿が目に映る。太陽が由来である娘の名前は「あさひ」。地球の大自然が由来である息子の名前は「栞太郎」。すぐさま父による太陽系の講義が始まる。娘が太陽、息子が地球、父が月になって自転と公転を繰り返す。

「今じゃないよね。」

妻の冷たい一言に我にかえる。

このように、サポートを頼まれても子どもと一緒になって遊んでしまうという的外れな夫。そんな私が、妻の朝を理解するために娘と息子のお弁当作りに挑戦した。考えるよりやってみようと思ったのがキッカケ。

月曜日。

「じゃあ、明日よろしくね。」

妻からの一言にたじろぐ。お弁当を完成させられるイメージがわかない。何から手をつけたらいいか分からないのである。

「何事にも準備が必要だから、まずは日にちを決めよう。」

子どもじみた言い訳により翌日の実施は見送らせてもらった。

次の木曜日。お弁当作り実行の日は3日後に決定した。

火曜日。

お弁当といえばキャラ弁だ。どこかで「はらぺこあおむし」のお弁当を見たのを思い出した。こういうときはGoogle先生に頼る。枝豆とミニトマトを使った「はらぺこあおむし」弁当を見つけた。可愛い、簡単、栄養バランス良し。「これにしよう!」すぐに妻に相談。「可愛いし、枝豆とミニトマトは好きだからいいんじゃない。」とお墨付きをいただき自信をつけた。

水曜日。

会社帰りの深夜、駅前のスーパーに駆け込むも、冷蔵庫の中を把握していないことに気づく。慌てて妻に電話。

「ブロッコリーとミニトマトある?」

「両方ともあるよ。」

電話しながら野菜コーナーを物色。大変なことに気づく。枝豆がない。

「どうしよう?枝豆がないんだけど!」

「冷凍の枝豆ならうちにあるよ。」

この時、冷凍の枝豆の存在を初めて知った。まるで子どもの「はじめてのおつかい」のようである。何はともあれ、ほっと胸をなでおろす。帰宅後は翌朝のお弁当作りに向けた準備をする。キッチンの中を把握することから始めなければならない。何も把握していない夫に少々呆れた様子の妻にレクチャーを受けながらお弁当作りのシミュレーション。使う食材を説明しながら、その都度、ダメ出しをいただく。子どもの好き嫌いを把握していないからである。この時、娘と息子で好みが違うため、それぞれに合わせたメニューにしていることを知った。1種類だと思っていたお弁当は、実は夫の分を含め3種類だったのである。この日の準備の締めくくりは、お米を炊くための炊飯器の予約セットである。お米を研いで、水を入れて、タイマーをセットするだけの幼稚園児にもできる簡単な作業…のはずが、ここで妻の鋭い指摘が入る。お水の量が違うと言う。お弁当のご飯が緩くならないよう、目盛りより少なめにしておくのがキモだと言うのである。まるで、新入社員になった気分である。細かい話に少し憮然としながらも、その細やかな気遣いに感謝の気持ちが湧いてくる。

木曜日。

いつもより早い時間に起床。薄暗い部屋の電気をつける。肌寒いキッチンに眼が冴える。いつもは、家族の誰よりも早く起床した妻が温めてくれた部屋に、寝惚け眼で起きてくるのだが今日は違う。妻の朝を体感した瞬間である。バナナを頬張りながら妻の行動を思い返す。まずはじめに洗濯機を回す。普段は洗濯機の回る機械音を布団の中で聞きながら過ごす。今日の妻は布団の中で静かに寝息をたてながら気持ちよさそうに寝ている。そんな妻と、寝相が悪く四方八方を向いて寝ている子どもたちの姿を見るのも悪くない。

それも束の間、鳩時計の鳴き声が朝の時間との戦いのゴングである。頭の中ではドリフターズの盆回りが流れる。娘と息子を叩き起こし、制服に着替えるよう促す。すんなり起きるがマイペースでなかなか着替えない娘と、「さむい」と言って団子虫のように布団に包まり出てこない息子。二者二様の様が新鮮であるが、これが毎日続くと考えると、子どもに腹をたてるのが分かる気がする。それにしても、親によく似た子どもたちである。娘のマイペースは私似、息子の寒がりは妻似。見事に夫婦に似ているのである。この親にこの子ありである。

「今日はトトが弁当作るよ。」

の一言に子どもの目の色が変わる。

「トトが弁当作るの?やったー!」

喜ぶ息子。

「何を作るの?」

嫌いなものを入れらないか、冷静に中身を気にする娘。

この場面でも二者二様の反応。

ここで、夫のお弁当作りに半信半疑の妻が起き出してくる。子どもを任せ、お弁当作りに集中する。途中、子どもたちからの「みてみて」攻撃や、「きいてきいて」攻撃にペースを乱される。相手をしてやりたいが時間は待ってはくれない。私は聖徳太子ではなく、平凡なおやじなのだ。寄ってくる子どもたちを冷たく受け流すのが精一杯である。なんとかその場をしのぎ、お弁当が完成。気づくと1時間が経過していた。すぐに子どもたちにお披露目。

「はらぺこあおむしだー!」

「かわいいー!」

いい反応だ。

そこへ妻から鋭い指摘。

「この子達、幼稚園バッグ振り回すからぐちゃぐちゃになるかもよ。」

「そうなの?早く言ってよ。」

はしゃぐ子どもたちを背景に、全知全能の妻と無知無能な夫のシュールなやりとり。

「お弁当ぐちゃぐちゃになるから、幼稚園バッグは振り回さないでね!」

すかさず、子どもに忠告するとともに、これが見納めと写真におさめる。

ダイニングテーブルに腰掛けほっとひと息つくと、周りのこと全てを妻が片付けてくれていることに気づく。これが、妻が夫に求める育児の役割なのだ。

その日の夕方、妻からメッセージとともに写真が届く。そこに写ってるのは「空っぽのお弁当箱」と子どもからの「美味しかった」のメッセージ。「2人ともキレイに完食してきたよ!」とのメッセージから、妻が上機嫌であることが伝わってくる。

お弁当を作ったオトンへの子どもたちからのおくりものは、

「ナンニモナイ」

空っぽのお弁当箱にココロが満タンになる。そんなステキなおくりものであった。

はらぺこあおむし弁当

妻の朝を知るためのお弁当作りを通して、5ゲン主義の視点から、次に紹介する学びがあった。

<現地>

キッチン内部

<現物>

弁当作り

<現実>

妻が夫に求める育児

<原理>

キャラ弁は幼稚園バッグを振り回すと崩れる

<原則>

子は嫌いなものは食べない

 

これには続きがある。

帰宅後の夫婦の会話。

「今日はたまたま園長先生とご飯を食べたらしいんだけど、弁当を見た園長先生に、「お母さんすごいね。」と言われて、「違うよ。パパが作ったんだよ。」と言ったんだって。いつもパパが作ってるって思われたかも。鬼嫁だと思われたかも。」

と妻が心配する。

「大丈夫だよ。そんなこと思ってないよ。(しめしめ。こんなイメージ戦略も悪くない。パパのイメージ向上に向け、今後の参考にしよう。)」

 

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