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オトン!吉田鋼太郎さん【2017インタビュー前編】〜父親 子育て
俳優 吉田鋼太郎さん
※こちらは、2017年7月公演ミュージカル「ビリー・エリオット」に出演の際に「お父さん」というテーマでインタビューしたものです。
ミュージカル「ビリー・エリオット」。男手一つで息子を育てる炭鉱夫の父とバレエに目覚めてしまった息子の物語。「これがもうoton+to感満載なんです。ミュージカルはちょっと、、、」という食わず嫌いのオトンにも、これはぜひ観てもらいたい。ということで、その見どころをオトン役、吉田鋼太郎さんにお話を伺いました。
聞き手:oton+to編集長 布施太朗 写真:吉谷吾郎
第1回「僕は女になりたい」と息子から突然告げられたら、父親の自分はどうするだろうという話なんです、要は。
―よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
―今回、吉田さんが、お父さん役としてご出演されるミュージカル「ビリー・エリオット」ですが、このストーリーがすごくoton+to的だなあと思いまして、ぜひ、お話を伺いたいなと思って稽古場までお邪魔してしまいました。
ありがとうございます。あらためてストーリーを少しお話しますと、舞台となるのがイギリスの炭鉱町なんです。石炭が必要とされなくなってくる時代で閉山寸前に追い込まれていて、これからの自分たちの身の振り方をどうするんだと、ストライキを起こしているという状態なんですね。私は、この炭鉱町に生まれてずっと炭鉱夫として働いてきて、ほぼその世界にしか生きたことがないお父さんなんです。そういう意味では、それ以外の世界を知らないがゆえの偏見もたくさんありますし、しかも頑固。外に対して心を開かないというか目を向けようとしてこなかった人です。そのお父さんの息子がバレエをやりたいと。彼からしてみれば全く想像だにしていなかったことを突然言われることで動揺し、狼狽するわけです。
―狼狽するんですね。
そうです。この物語はとてもドラマチックに描かれているんですが、言ってみれば隣の家庭や、まあ自分の家庭にも起きそうな話なんですよね。この出来事を今の時代に置き換えてみると、つまり息子が何をやったら、父として「俺は絶対許さんぞ!」と言うだろうかと想像してみると、例えば息子から突然、性転換したいと言われるというようなことです。
―おおっ!突然、性転換を告げられる?
僕は女になりたいというのは、今はよくある話ですよね。でも、息子に言われたら自分だったらどうするだろうという話なんです。そうすると僕はまず反対すると思うんですよ。もう少しハードルを下げた話でいうと、整形ですね。僕らの世代からすると親からもらった顔に手を入れるなんてことはとんでもないことだと教わってきたので、子どもから整形したいと言われたら反対すると思うんです。ビリー・エリオットは、まあそういう話です。
―なるほど。確かに息子がバレエのダンサーと聞くと、今の時代の感覚だと「お父さん、そのくらい自由にさせてあげればいいじゃん」って思うんですけど、その頃のその町でのバレエのダンサーというのは、今の時代の性転換に匹敵するくらいのことと捉えると、お父さんが狼狽するのは分かる気がします。
お父さんは息子にボクシングを習わせているんです。そういう世界はよく分かる。でもバレエは女がやるもんだという偏見がどうしてもあるんです。タイツ履いて腰振ってお尻振ってなんてことを息子がやるなんてことはとんでもないことで、劇中でもバレエダンサーは“おかま”だと断言しています。
―今までの自分の価値観にはないこと。
そうですね。価値観が崩れ落ちるかもしれないことを息子が突きつけてくるんです。でも、そのお父さんの気持ちが変わるのは、息子が踊っている姿を見た時です。それがまた強烈なんです。バレエは女のもんだと思っていたら、ところがどっこい、ものすごくカラダを酷使するし、とてもじゃない、これこそ男一匹生きていくという時に、仕事として選んでいいものだということを初めて分かるんですね。遅まきながら。偏見というのは、実際に見ないと拭えないものなんです。
―偏見は実際に見ないと変わらない。
また今の時代に置き換えて話をすると、息子がものすごく美女になって僕の目の前に現れたら、、、それは、うーん、認めちゃうかな、綺麗だし(笑)。
―笑!それがもし残念な結果だったら、戻してこいと?
あははは!それは身も蓋もないですね(苦笑)。
―でも、圧倒的なパフォーマンスを目の当たりにして父の心が動かされるんですね。
僕もね、大学生の息子がいるんですが、一浪して希望の大学に入ったんです。でも現役のときに大学を全部落ちたと聞いた時は、本当にがっかりしてしまって、怒ったんです。離婚した妻との息子なので、一緒に暮らしていないんです。会うのは2ヶ月とか3ヶ月に1回。仲良くご飯を食べて楽しく過ごすことが目的なので。普段は怒ることなんかないんですが、その時は怒ったんですよ、僕。「吉田家には浪人したやつはいない!」くらいの、めちゃくちゃ偏見に満ちた、めちゃくちゃ自分よりの、しかも吉田家、「家(け)」を出しちゃうというね(笑)。そのことに息子が大変傷ついたんです。傷つき、怒り「そんなことを言われるとは思わなかった」と。僕「バカなんじゃないかお前は!」って言い放ったんですよ。息子はそこから火が着いちゃったみたいで、バカと言われたことが悔しくて、勉強して、それで早稲田に受かったんですが、合格したと聞いてから、あらためて僕、心から後悔したんですよね、バカだと言ったことを。
―でも、結果としてそれがバネになって息子さんは頑張れたんですよね。
いや、僕がその時に言った「バカなんじゃないか」は、決して息子のバネにさせるために言ったのではなくて、ただただ感情的に言っただけなんです。バネにさせるために言うのであれば、同じバカを使うのでも、もっと諭すような言い方もあったと思うんですが、僕は言ったのは、「ヴァッカなんじゃねーか!」って(笑)。
―なるほど、感情的な「バカ」ですね。
まあ、一浪しても受からなかったらもう1回「バカじゃねーか」って言ってやろうと思っていたんですけど、受かったんですね。それを聞いた時はとても嬉しかったとともに、あの時言った「バカ」は悪かったなあと。で、息子はバカじゃなかったんだって(笑)。
―一浪すると聞いた時、なぜそこまで感情的になったんですか?
なんでしょう。自分が一浪していないからなんですよね。自分の体験していないことなんです。落胆するんですよ。落胆が本物なんです、息子のことなので。自分の息子に対しては、無い物ねだりをしてしまうんですよね。ウチの息子は賢いんじゃないか、ウチの息子は強いんじゃないか、ウチの息子は優れているんじゃないかと思いたいんですよ。息子が1歳半の時に離婚してそこからずっと一緒に住んでいないものだから、想いが勝手に強くなっちゃっているんですよ。
【後編】に続きます。
※こちらは、2017年7月公演ミュージカル「ビリーエリオット」に出演の際に「お父さん」というテーマでインタビューしたものです。
【後編】に続きます。
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